退職後の就職先の制限は有効か(競業避止特約の有効性)
「ある企業で一定期間働いた後、そこで学んだノウハウや取引先を、次の職場で役立てたい」と誰しも思うことでしょう。しかし、前の会社を退職する時、場合によっては入社する時から、「退職後〇年間は、会社と競業関係にある事業者に就職しません」、あるいは、「退職後〇年間は、会社と競業関係にある事業を自ら開業しません」といった契約(特約)を結ばされることがあります。このような特約は法的に有効なのでしょうか。
このような特約は「競業避止(禁止)特約」と言われ、会社(企業)としては、企業秘密(取引先、ノウハウなど)を守りながら活動する必要があることも否定できません。
一方で、労働者の側にとっては、憲法22条で定められる「職業選択の自由」を制限することは明らかですから、無制限に有効とはならず、必要かつ合理的な理由がある範囲でのみ有効となります。
では、必要かつ合理的な理由がある範囲とは、具体的にはどのような範囲でしょうか。
この問題については、①競業行為を禁止する目的・必要性、②退職前の労働者の地位・業務内容、③競業が禁止される期間、地域、④競業の禁止に対する代替措置の有無等を総合的に判断すると考えられています。
例えば、①一般に、どのような企業であっても、一般的なノウハウや人脈作りはあるでしょう。これに対して、特殊な技術を駆使するような会社であれば秘密保持の必要は高くなるといえるでしょう。
実務的に問題になるのは、③競業が禁止される「期間」です。かつては2年程度であれば有効と考えられていましたが、近時は2年は長すぎるという考え方も広まっています。
また、「地域」については、例えば、競業禁止の目的が、「顧客や市場の確保」という点が中心的な目的であれば、地域を広めて制限することは否定的に考えることになります。これに対し、競業禁止の目的が「特殊な営業秘密やノウハウの保護」を目的とする場合には、地域を広めて制限することも有効となる方向で考えることになります。
この問題は、退職金の支払いをしない理由として利用されることもあり、慎重に考えるべき問題です。悩まれたら弁護士に相談をお勧めいたします。