保険会社との交渉実務
交通事故に遭われた被害者の方の代理人として相手方保険会社と交渉をしていると、よく「訴訟外 和解なので、裁判基準×80パーセント」との文言を見ます。 交通事故で代理人が就くと、保険会社が提示する金額より高くなるという宣伝をしている法律事務 所もありますが、あれは保険会社基準よりも高い裁判基準(裁判官が判決を出す際に使用する基準) に基づいて請求しているからです。 相手方保険会社としては、裁判基準を提示されると、裁判になったときも同じ金額+1割ほどの弁 護士費用を支払わなければならないので、裁判基準で示談に応じるという仕組みです。 このとき、保険会社は裁判基準の8割を支払うから示談に応じてくれと言ってくるケースがありま すが、なぜ8割なのでしょうか。 長年の謎だったのですが、一つの説として、裁判官が以前行った講演が理由ではないかと分析する 記述を以前見かけました。 平成14年の東京地裁民事第27部の河邉義典裁判官が行った講演によれば、入院・通院慰謝料に ついて、裁判基準の6割ほどが提示され、弁護士がついてやっと7割から8割5分ほどであるとの 印象が語られていました。保険会社の担当者で、この講演内容を引用するケースがごく稀にありま すが、これは、弁護士費用特約の普及率が低い平成14年当時の話です。 現在は弁護士費用を自費で負担せずに利用できる弁護士費用特約の利用率も高く、裁判になっても 弁護士費用に悩む必要がないため、裁判コストについてはあまり考慮しなくてもよくなりました。 そこで、時代が違う以上は、裁判基準から2割も減額する根拠にはならないのだという反論をして いく必要があります。